「システム上は在庫が500個のはずが、数えたら498個しかない」
「明日納品が必要な注文のピッキングに行ったら、棚が空だった…」
こうした「幻の在庫」に、悩んだことはないでしょうか?
これは営業担当者や倉庫スタッフの貴重な時間を奪うだけでなく、業務全体を停滞させてしまいかねない課題になります。
そしてこの「数字のズレ」は、やがて需要予測や受発注の処理にも影響を及ぼし、場合によっては会計処理や経営判断といった会社の根幹をも揺るがしかねない事態に発生することもあります。
しかし、安心ください。
在庫の不一致はいくつかのパターンに場合分けすることができるため、正しい手順を踏めば必ず解決することができます。この記事では、その根本的な原因から現場で実践できる具体的な改善策まで、分かりやすく解説していきます。
なぜ在庫が合わない?4つの根本的な原因
在庫の不一致が発生してしまう原因は、決して1つではありません。多くの場合、以下のような4つの区分で発生した小さな要因が積み重なり、いつの間にか大きなズレになっていることがほとんどです。
- 人的要因(ヒューマンエラー)
システムへのデータ入力ミスや、入庫や出荷における数量のカウント間違いといった、日々の業務に潜む単純なミスが、結局は在庫不一致の一番の原因になりがちです。
- 業務プロセスの不備
入荷や返品の在庫計上ルールが曖昧だったり、ケースやピースといった数え方のルールが明確でなかったり、人によって手順が違っていたりする場合があります。こうしたルール化、標準化されていない「仕事のやり方」が、ズレを生む潜在的な温床になります。
- 消失在庫
システム上には「アイテムが存在するはず」なのに、実際には倉庫からなくなってしまっていることがあります。倉庫内での破損や期限切れによる廃棄、あるいは盗難などで在庫が減少したにも関わらず、その処理が在庫数値に反映されないと、データ上は「販売対象在庫」として誤って残り続けてしまいます。
- システム・技術の問題
WMS(倉庫管理システム)の不具合や、システム間の連携ミスによるデータ同期の遅れなども、在庫の精度を狂わせてしまう原因になります。
在庫不一致が事業に与える6つのリスク|機会損失やコスト
在庫の数字が合わない・・。その小さなズレは、気づかないうちに事業の利益を圧迫し、目に見える以上の損失を生み出してしまうリスクがあります。
- 販売機会の損失
システム上では在庫があるはずなのに実際には欠品していると、「注文や発注に対して届けられない」という状況になってしまいます。個人向けのECサイトにおいても法人向けの商取引においても、お客様の信頼を損ねてしまう行為になってしまうため、ビジネス上では最も避けなくてはなりません。
- ムダな在庫とコストの増加
正確な在庫数がわからないと、欠品を恐れるあまり、次第に過剰な在庫を抱えることになってしまいます。中期的にはこれがキャッシュフローを圧迫する原因にもなってきます。
- 業務工数の増加
倉庫内において、担当スタッフは「確認できないアイテム探し」や、「急な出荷に対する在庫確認」といったイレギュラーな対応に追われ、本来の業務に使うべき時間を浪費してしまいます。
- サプライチェーンの混乱
不正確な在庫データを基に需要予測を実施しても、全く意味がありません。正しくない需要予測は、仕入れや生産計画に悪影響を及ぼしてしまい、サプライチェーン全体の流れを滞らせてしまいます。
- 従業員の士気の低下
頻発するミスや、どこにあるか分からない商品を探し回る作業は、現場のストレスや疲労感を増大させ、従業員満足度やモチベーションを著しく低下させてしまう恐れがあります。
- 顧客満足度の低下と顧客離れ
欠品による注文キャンセルや出荷の遅延は、お客様の信頼を大きく損ねてしまいます。たった1度の欠品が、お客様を競合他社へ乗り換えさせてしまう引き金になるのです。
在庫不一致を解消する改善の3ステップ|在庫精度の向上
在庫不一致の問題は、大きな投資をしなくても取り組むことができます。また一気に実施するのではなく、段階を踏んで1つ1つ解決していくことが成功のコツです。
以下の3つのステップで改善を進めていきましょう。
ステップ1:まずは足元から。現場の「基本動作」を徹底する
- 定期的な在庫チェック(サイクルカウント)
年に数回の棚卸しに頼らず、エリアや品目を決めて毎日・毎週少しずつ在庫を数えていきます。少量でも多頻度であるが故にズレを早期に発見・修正でき、常にデータの鮮度を保つことができます。
- メリハリをつけた在庫管理(ABC分析)
出荷頻度などに応じて在庫をランク分けし、頻度が高く重要な「Aランク品」は重点的に確認するなど、管理にメリハリをつけます。
- 誰がやっても同じ結果になる「ルールの徹底」(SOP)
入荷、棚付、ピッキングといった重要な作業の手順を明確にルール化し、全員がその通りに実行することを徹底します。
- 全員の意識を一つにする「教育」
スタッフ全員がルールの重要性を理解し、「在庫を合わせる」という意識を共有することで、現場の責任感や仕事の質を高めていきます。
ステップ2:人の手に頼らない「仕組み化」を進める
- WMSを導入して在庫情報の「司令塔」を作る
WMS(倉庫管理システム)はいわば在庫管理の「司令塔」です。すべての在庫情報をWMSに集約し、「WMSの数字が絶対」というルールを徹底しましょう。Excelなどを使った部署ごとのバラバラな管理をやめることで、情報の食い違いや入力ミスを防ぐことができます。
- バーコードでミスの起きにくい仕組みを作る
入荷から出荷まで、すべての在庫の動きをハンディターミナルなどでスキャン登録します。機械的に情報を読み取ることで、手作業によるミスを根本からなくせます。
- 受注から出荷までを自動連携させる
ECサイトや取引先からの注文が、WMSに自動で連携されるようにします。すると、注文が入った瞬間に在庫が引き当てられ、すぐに出荷指示を出せるようになります。出荷後も、配送状況が自社システムに自動で反映されるため、お客様への通知漏れや入力ミスもなくなります。
ステップ3:倉庫レイアウトの最適化
- 業務プロセスを整理して、作業のムダとミスを防ぐ
倉庫内の物理的な人やモノの流れを整理して移動の無駄をなくすことで、スムーズで安全な作業環境が生まれます。そうなると、作業する人にも心の余裕が生まれ、焦りや不注意からくる単純なミス(スキャンのし忘れ、数量の数え間違い、商品の仮置きなど)も防ぎやすくなります。
- よく出る商品は、一番取りやすい場所へ(ABC分析)
出荷頻度で商品をランク分けし、よく売れる「Aランク品」は出荷口の近くなど、最も取り出しやすい位置に配置します。業務全体における作業者の移動距離を、より短くすることができます。
- 「あわせ買い」商品は、近くにまとめる
一緒に購入されやすい商品は近くにまとめて置けば、一度の移動でまとめてピッキングできるようになります。
- 似ている商品は、あえて離す
パッケージなどが類似していて、ピッキングの際に間違いやすい商品は、あえて離れた場所に保管します。こうすることで、無意識に別の商品を取ってしまうミスを防ぐことができます。
- 誰でも一目で分かる表示とラベルで、ミスをなくす
棚や通路といった保管場所の表示を「誰が見ても直感的に分かる」ように統一するだけでも、商品の入れ間違いやピッキングミスは大きく減らせます。さらに、すべての棚と商品にバーコードを貼り付けて、入庫や出荷のたびにハンディ端末などでスキャン登録すれば、「システムが作業の正しさをチェックしてくれる」仕組みが作れます。
【ワンポイント】
ただし、出荷頻度の高い商品ばかりを一箇所に固めすぎると、作業スタッフがそこに集中してしまい、かえって混雑の原因になることもあります。通路の広さや人の動きも見ながら、あえて売れ筋商品を少し分散させる、といった柔軟な対応も大切です。
地道な改善とIT活用で在庫不一致を解決へ
在庫の不一致は、その場しのぎで対応すべき問題ではありません。また、単純にIT化すれば解決することにもなりません。
この記事でご紹介したように、現場のルールや整理整頓といった基礎を固め、それに平行して目的に合わせてシステムを正しく活用していく必要があります。
そしてこうした地道な改善を一つ一つ積み重ねることで、倉庫は単なる「コストセンター」ではなく、「利益を生み出す戦略拠点」へと生まれ変わっていきます。
日々の在庫精度を高めていくこと。それこそが、顧客満足と事業の成長につながる一番の近道です。
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